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書誌データ

新書・文庫
新潮社
2002年 03月 発売
331P
9784101122144

集団という罠

4

あれは誰だったろう、内田樹だったか、『ポセイドン・アドベンチャー』を例に引き、「慌てるべき時には慌てなくてはいけない」と言っていたのは。 


劇中、大津波で転覆した豪華客船の大ホールで、船のスタッフとG・ハックマン一派が言い争う。ハックマンは船が海上に腹を出しており、上に(つまり船底に)登っていくべきと主張、対するスタッフは、慌てず指示があるまでここに留れと言い聞かせる。議論は時間の無駄と登攀を開始したハックマン一行の足下で、侵入した大量の水に「冷静な人々」が呑まれてゆく。

自分にとって都合の悪い情報を無視し、異常事態をそれと捉えず正常の範囲内だと思い込んでしまうこうした心理機制を、災害心理学では「正常性バイアス」と呼ぶ。

皆が逃げないのに自分だけ慌てるのは恥ずかしいと感じてしまうこの機制を解除することが、迅速な避難のカギだというが、このバイアスを増幅する要素の一つが「多数であること」だろう。 


上述の映画でも、多くの人々がホールに留まった最大の理由は「皆がそうするから」だったはずだ。集団であることはたしかに力だが、衆を恃んで負ける戦もあるように、そこには大きな陥穽が存在する。多数であることで精神状態が日常性の内に退行し、危機意識が鈍磨してしまうためである。

本書は新田次郎の手になる山岳小説の傑作であるが、私と同世代なら、映画化作品のキャッチコピー「天は我々を見放した!」(by北大路欣也)が記憶に残っているだろう。

日露戦争前夜、旧陸軍が八甲田山中で実施した、ほとんど人体実験と形容すべき無謀な軍事演習。結果として199名の死者を出す大惨事となったこの「八甲田雪中行軍遭難事件」をモデルに描くノンフィクション・ノベルである。

小説であるから細部は事実と異なるのだろうが、遭難の原因となった神田大尉(演:北大路欣也)率いる青森5連隊の目を覆いたくなるような指揮命令系統の乱れは、出来の悪い組織の怖さ、そして何より集団であること自体のリスクを雄弁に物語っており、読んでいて背筋が寒くなる。大集団でなかったら、果断な行動で危機を逃れられたかもしれないのだから。

一方、青森5連隊と対照的に描かれるのが、同様の実験に挑んだ徳島大尉率いる弘前31連隊である。映画では高倉健が演じた徳島は、青森5連隊の遭難を後目に、少数精鋭による徹底した合理的行動で、この無謀な挑戦を見事成功に導く。

本書のテーマは単なる八甲田遭難の歴史的事実ではなく、その運営に合理性を欠いた旧日本軍、ひいては日本的組織そのものへの批判であったろうが、期せずして集団という存在形態の恐怖をも浮き彫りにしている。

心すべきであろう。死は自分だけのものだ。たとえ仲間がそこにいたとしても、死はただ自分だけに向かってくるのである。 

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このブクレポへコメント

マーブルさんがこのブクレポにコメントしました

マーブル
マーブルさん2012-03-22 20:39:05

 八甲田山にはこの遭難の記録を残した展示館のようなものがあるのですが、そこを訪れた後に読み返すと、よりリアリティを持って感じられます。
 亡くなった方ばかりでなく、凍傷によって四肢のあちこちを失った生存者達の写真がとても悲壮です。

 本当に無茶としか思えない行軍なのですが、それをそう思わせずに実行されてしまうところも集団の怖さなのでしょうね。

ランピアンさんがこのブクレポにコメントしました

ランピアン
ランピアンさん2012-03-22 20:51:47

>>マーブルさん
 ありがとうございます。八甲田には行ったことがないんですよ。展示施設があるんですよね。ぜひこの目で見てみたいですね。対露戦を目前にして舞い上がっていたのかもしれませんが、それにしても悲劇です。

ランピアンさんがこのブクレポにコメントしました

ランピアン
ランピアンさん2012-03-20 22:40:52

>>アーミーさん
そう、山の怖さを知っていれば、でしょうね。もしこれが個人で挑むものだったとすれば、当然もっと万全の用意で臨んだことでしょうから、集団に運命を預けきりにするのは危険だということですね。

アーミーさんがこのブクレポにコメントしました

アーミー
アーミーさん2012-03-20 22:22:21

懐かしい小説です。新田次郎さんの代表作と思っています。この実際の事件を取材していたとき、八甲田雪中隊員の亡霊たちがかわるがわる新田次郎の夢枕にたって自分のことを書いてくれと言ったそうです。この行軍で生き残ったのはまずしい山育ちの一等兵たちで冬山の怖さを知っている者たちのみです。死んだ者たちは少しでも自分たちの経験したことを後世に残してほしいと思ったのでしょう。大将を守るのも大切ですが自分の身は自分で守ること、これが一番大事だったことでしょう。

ランピアンさんがこのブクレポにコメントしました

ランピアン
ランピアンさん2012-03-20 19:43:40

>>3kiさん
 私はそうした経験がありませんが、なるほど、地図がね…。地図一枚でそうなるんだから恐ろしいものです。極限的な冒険では、道具が非常に重要だと聞きます。肌着の材質で命が左右されることもあるとか。
 死ぬのはそれぞれですからね。誰も代わりに死んでくれない。あの津波でも問題になりましたが、いざその時には一人一人でどうすべきか判断しなければならないんでしょうね。

3kiさんがこのブクレポにコメントしました

3ki
3kiさん2012-03-20 19:28:35

家族で登山中、道に迷ったことが。
雨、靄、蛭、地図がおかしい中でしたが、何とか正しい道に出たときは、どれだけほっとしたことか。
少数で、両親も何とかしなくては、と進んだのが良かったのでしょう。
ちなみに原因は、最新の地図を購入したのに、販売元が廃道を載せたままにしていたことでした。
「たとえ仲間がそこにいたとしても、死はただ自分だけに向かってくるのである。」不安は分かち合っても、死はそれぞれ。だからこそ必死にあがく必要があるのですね。

ランピアンさんがこのブクレポにコメントしました

ランピアン
ランピアンさん2012-03-20 18:10:45

>>Aokiさん
いえいえ、私もかつて読んで感動しましたので。

Aokiさんがこのブクレポにコメントしました

Aoki
Aokiさん2012-03-20 17:50:04

流石、ランピアンさん。シャクルトンって直ぐに繋がるところがすごい! 先ほどまで思い出せずにもがいておりました。

hi2515さんがこのブクレポにコメントしました

hi2515
hi2515さん2012-03-20 17:27:33

新田次郎氏の得意とする分野ですね。
数冊は読んでいますが、この本は読んでいませんが読み応えがありそうですね。
北海道の大学の登山合宿で遭難し一人だけ残った生存者のノンフィクションは記憶に残っています。
私は山があるから登るという境地にはとてもなれそうにありません^^;

Aokiさんがこのブクレポにコメントしました

Aoki
Aokiさん2012-03-20 17:29:15

”集団という罠” なるほど、確かにある。
率いるリーダーがいるのであれば、その資質にもよるだろうが、不特定多数の集団の中での異論を唱え行動するのも勇気がいるなぁ。ブクレポを拝見しながらエリザベス・コーディキメル著『エンデュアランス号大漂流』を思い出していた。

ランピアンさんがこのブクレポにコメントしました

ランピアン
ランピアンさん2012-03-20 17:32:50

>>Aokiさん
シャクルトンみたいな人がいれば別だったでしょうね。強いリーダー型の欧米の方がこういう際には強いかもしれませんね。

ランピアンさんがこのブクレポにコメントしました

ランピアン
ランピアンさん2012-03-20 17:31:42

>>hi2515さん
私も低地登山のみです。もっともこれも油断はできませんが。

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