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奈落の獣たち » « 加茂の千鳥よ心があらば
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私鉄王国大阪

4

私は生まれてこの方ずっと阪急電鉄宝塚線の沿線に住んでいるが、幼い頃、この電車に乗ると不思議に感じることがあった。


終点宝塚駅の近傍にJR(当時は国鉄)の宝塚駅があるのだが、電車が終点に近づいても国鉄への乗り換え案内がないのだ。両駅は目と鼻の先にあるのに、である。しかも、地域の基幹道路である国道176号線が両駅を境いていて、歩道橋もないため横断歩道での信号待ちが必要であり、不便なことおびただしかった。

それだけではない。阪急のターミナル駅である梅田駅から国鉄大阪駅に行く場合も似たようなもので、屋根もない吹きさらしの歩道橋を渡って向かうことになる。地下道はあるが遠回り、どうしてもっと便利にできないのかと子供心にも思ったものだ。

当時はその訳など知る由もなかったのだが、本書を読んで長年の疑問は氷解した。首都圏とは異なり、関西地方では国鉄と私鉄は宿命的な対立関係にあったのである。それは日本の鉄道の歴史に秘められた、ある経緯にまつわっていた。

周知のとおり、後発近代国家である明治期以降の日本において、鉄道は国民統合のための重要な装置であった。東京から地方へと伸びる鉄道網は、遠隔地間の人間の移動と交流を促進し、幕藩制度の下で分断されていた各地方を結び付け、それまでバラバラであった人々の身体や感覚、そして地方文化を統合した。その結果として均一な「国民」が創出されたのである。


すなわち鉄道とは、「日本人」を創り出すための手段でもあったのだ。

しかも天皇が特別列車、いわゆる御召列車に乗って日本各地を行幸することで、人々はそれまで雲の上の存在であった天皇を身近に感じ、「天皇の臣民」としての意識を共有することになった。近代国家における鉄道とは単なる交通手段ではなく、いわば一大文化装置だったのである。

したがって、日本における鉄道の建設と経営を主導したのは当然のごとく国家、すなわち「官」であったのだが、しかし日本で唯一、民間資本すなわち「民」が鉄道の敷設・経営をリードし、官製鉄道の支配を受け入れなかった地域があった。商都大阪を中心とする関西地方である。そうした事情からして、当地における私鉄と国鉄の関係は決して良好ではなかった。

阪神電気鉄道、近畿日本鉄道、南海電気鉄道、京阪電気鉄道、そして本書の事実上の「主役」である阪急電鉄と、これら関西大手私鉄は単に鉄道事業を営むのみならず、郊外に大規模な住宅地開発を行い、百貨店と遊園地を経営し、プロ野球チームを所有するなどして本業との相乗効果を狙うとともに、沿線に独自の文化、いわば「私鉄文化圏」を作り上げていった。


著者は宝塚歌劇団に代表される京阪神私鉄文化の形成を丁寧に辿っていくが、今日、文化史家らによって「阪神間モダニズム」と呼ばれるようになった生活様式は、関西の鉄道資本によるこうした事業の所産だったのである。

こうした関西の「私鉄王国」ぶりは、私鉄の駅と国鉄のそれとの位置関係にも表れている。ターミナル駅が国鉄山手線に従属する形で作られている関東私鉄と異なり、関西私鉄は国鉄の駅から離れた場所に独立したターミナル駅を構えている。


国鉄の大阪駅に対し、阪急、阪神は梅田駅、南海、近鉄は難波駅、京阪は淀屋橋といった具合だ。国鉄と一線を画す関西私鉄のこうした姿勢こそ、冒頭で述べた子供時代の私の疑問に対する解答であった。

だがそんな「私鉄王国」の時代も、「官民協力」を求める昭和天皇の登場とともに終りを告げることになる。それを象徴するような事件が「阪急クロス問題」だった。

阪急電鉄の総帥小林一三は、「官」の論理を拒否する関西私鉄の「反官思想」の体現者ともいうべき人物であったが、彼は自社の線路が国鉄のそれと交叉する場合には、必ず高架によって国鉄線路の上に通してきた。


しかし国鉄大阪駅の改築工事をめぐり、御召列車が走行する国鉄の線路の上を私鉄が通ることを問題視する「官」の圧力に押され、阪急電鉄は梅田駅周辺の高架を撤去するのやむなきに至ることとなる。

かくして、関西の私鉄文化に代表される「民」の論理は、〈帝都〉東京をその象徴とする「官」の論理に併呑されていったのである。

アマゾンのレビューなどを見ると、関西私鉄の歴史を「官」の論理と「民」の論理との相克とみる本書の歴史考証には強い批判もあるようだ。私にはその当否を論する資格も能力もないが、上述の官民の対立が余りに図式的だということかもしれない。

しかし、鉄道という文化装置に、そして私の生地である宝塚を含む京阪神文化圏に対する蒙を啓いてくれたという意味で、私にとって忘れがたい一冊である。

+5あり! +3あり! +1あり!
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男女共通
引用文
「このような歴史のなかから、大阪では後に詳しく触れるような、「官」に対決し、そこから独立しようとする、関西私鉄に特有の鉄道文化が生まれてきた。先の述べた阪急の梅田をはじめ、難波や上本町など、大阪の中心部にいまも威容を誇る数々の私鉄ターミナルこそは、「私鉄王国」大阪を象徴するものなのである。」  (52P)
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たたみさんがこのブクレポにコメントしました

たたみ
たたみさん2012-08-23 09:26:15

かんべむさしさんの「決戦日本シリーズ」という古い短編小説をご存知でしょうか?内容は阪急ブレーブスと阪神タイガースがリーグ優勝。セ・パを掛けて戦う事になるのですが、勝った方が負けた方の路線を使って凱旋パレードできる事になり阪神沿線対阪急沿線の地域ぐるみの戦いに発展していき…とういう話です。沖縄生まれ沖縄育ちの私に「鉄道はタダの輸送手段ではない」を教えてくれたビックリの小説でした。それまでは「駅前の物件」の価値もピンときませんでした。
それ以来「鉄道」は興味深いです。

ランピアン
ランピアンさん2012-08-23 20:20:03

 「決戦日本シリーズ」、題名だけは知っていましたが、そういうお話だったんですね。そうか、沖縄のたたみさんには特に印象が強いんですよね。
 ちなみに、大阪府の枚方というところに有名な千葉の成田山新勝寺の別院があるのですが、なんでこんなところにあるのか昔から不思議でした。後でわかったのですが、この枚方という土地は大阪から見るといわゆる鬼門にあたり縁起が悪いため、住宅地として開発しようとした京阪電鉄が成田山に頼んでここに勧請したんだそうです。信仰も鉄道に規定されていたわけですね。こんな具合に、関西では文化の一部を私鉄が形成してきたところがあるんです。

たたみ
たたみさん2012-08-23 21:37:11

沖縄にも成田山ありますよ。フットワーク軽いですね。
鉄道がお寺を呼んだワケですね。逞しいです。(笑)
鉄道が街を創るというのは興味深いです。

ランピアン
ランピアンさん2012-08-23 22:37:51

 あ、沖縄にもあるんですね。ほんとに軽いんだなあ(笑)。
 私の住む宝塚などは、小林一三が温泉+歌劇の+遊園地のレジャー施設を作るまでは、歴史らしい歴史もないド田舎でした。今でこそ市街化されてますが、私が幼時の頃でさえ、生家の最寄駅の前は牧場でしたから(笑)
 沿線の最終地点に遊園地を作って客を誘引したり、単なる田舎歩きを「ハイキング」と呼んでレジャーに仕立てたりと、今から考えてもたいしたアイディアだなあ、と思います。
 阪急を中心とする関西私鉄沿線の高級住宅地は、まだ貧しかった当時の庶民にとって近代を象徴する一種の「郊外ユートピア」だったと、著者の原さんは述べています。

たたみ
たたみさん2012-08-24 10:56:25

宝塚ってそういう歴史なんですね。
沖縄は戦前までは軽便鉄道があったようです。父母から話を聞くぐらいしか知らないのですが資料もそう多くないかも。鉄道が残っていたら様子は変わっていたのかしら。当時の駅を中心とした「街」から少し前の米軍基地周辺の繁華街、そして現在の新興住宅地・商業地へと「街」の位置が変わっています。県都「那覇」だけは変わらずですね。各家庭で自動車の所有台数が2台以上という現在の沖縄ですのでバスの乗車率も低く環境、健康、交通渋滞と問題になっています。

ランピアン
ランピアンさん2012-08-25 04:46:37

車は便利なんですよね。たんに便利というより、個人的空間をどこまでも延長できるから、個人主義的になった戦後の日本人には心地いいんでしょうが。

たたみ
たたみさん2012-08-26 00:40:17

一年ぐらいバス通勤していた事があるのですが、バスが時間通りに来ないのであてにならないのと料金が割高。車通勤に戻りました。よくないと知りつつも車は手放せないです。那覇の方だとモノレールもあるし、もう少しマシかもしれません。

ランピアン
ランピアンさん2012-08-26 12:22:17

そういう場合は車通勤も仕方ないですよ。私も和歌山に勤務していた頃、バスが余りに不便(時間が不正確、職場からバス停まで遠い)なので面倒になり、遂に職場の近傍に家族ごと引っ越してしまいました。あそこも路面電車が廃止されて以来、市内の交通手段がバスか車しかない状態なので。

たたみ
たたみさん2012-08-29 09:25:17

本土では時間通りに交通機関が動くと思い込んでいましたが都市だけなのでしょうか?「時間厳守」できるってスゴイ事なんですね。

ランピアン
ランピアンさん2012-08-29 20:40:55

ですねえ。和歌山って交通量凄いんですよ。遅れるといっても諸外国よりは正確なんでしょうけどね。

たたみ
たたみさん2012-08-29 23:06:01

車だけだと、そうなっちゃうんですね。
やっぱり、鉄道いいなー。

ランピアン
ランピアンさん2012-08-29 23:26:30

都市化してから鉄道引くのは難しいですからね。

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